投稿者:三郎
蛇男
「こんな話をしても、絶対お前は信用しないな。俺だってそんなことがあってたまるかと半信半疑なんだから」と、友達が笑みを浮かべる。
「あんな死に方って、誰だって作り話としか思やしないだろう」
その日、雨戸を開けてみて友は仰天した。前夜の豪雨で庭が池になっていたのだ。この調子ではシゲオの所は大変なことになっているなと思って、着替えをすると川沿いの低地にある家に向かった。
案の定、竹林を背負ったシゲオの家の前までくると、水の深さは友の臍の辺りまであって、とっくに避難しているかと思ったら、シゲオのオフクロが庭先で髪を振り乱して突っ立っていた。
母一人、子一人のシゲオで、父は三年前に思いがけない事故で死んだ。豚小屋が漏電か何かで火事になり、数十頭の豚を救うために豚舎の柵を開けたとき、突進してきた豚と衝突して、命を落としたのだった。
友の顔を見て、オフクロが何か喚きながら離れを指さす。友はゆっくりと水の中を進んでいった。足元がヌルヌルして何度か転びそうになった。水面には笹の葉がいっぱい浮かんでいて、それが所々渦を巻いている。
オフクロが顔を両手で覆う。友が開け放たれた窓から中を覗き込む。畳が浮き上がり、その上から布団が半分ずり落ち、宙を見上げるシゲオのもの凄い顔が見えた。
友は話を続けた。
翌日の新聞の見出しには『豪雨で浸水、溺死』と書かれていたが、そう書く他なかったろうと思う。
ただ、もし俺と同じようにあの現場を週刊誌のライターが見ていたら、きっとこんなふうに猟奇的な記事にしていたのではないかと思う。
『信じられない! 豪雨で窒息死、蛇の祟りか! ……
日頃から蛇を弄ぶことが多く、蛇男と呼ばれていた……どのようにしてその男の口に入ったのか?……
頭を半分食いちぎられ、蛇は男の首に巻きついたまま死んでいたが、男の目もまた蛇のように真っ赤な色をしていた』
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